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永遠〜とわ〜 第六話

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エリザベスと魂三郎は、王宮の広い廊下を歩いていた。侍従や従者の視線が痛いほどだったが、二人は無視をしているのか、考えるところがあり気付かないのか、全く意に介さない様子で人気のないテラスへと向かった。

テラスへ出て、魂三郎は重い口を開いた。

「…我がアスカ王国は、この度、スケニア国と同盟を結びメイ国と戦争をすることとなりました」

「・・・どうして!?スケニア国とメイ国との戦争に私達が関わらなくてはならないの!?」

「問題は、そう簡単ではないのです。メイ国は今、国中が大変深刻な飢餓にみまわれています。もともと作物はあまりとれなかったのですが、今年は大変な日照りで…もう他国に侵略するしか方法はなかったのでしょう。王女ならばおわかりになるでしょう」

「いいえっ!わからないわ。二国間の戦争のせいで国民の命が犠牲にならなければならないなんて」

「戦争をすれば、必ず犠牲になるものがいるのです。その犠牲になるのは国政に関係ない人達ばかり…」

「……」

「国を動かすのには、優しいだけでは駄目なのです。それでは国が滅んでしまう…」

魂三郎は、必死で絞りだしたかのような声で言った。

「国王様も苦渋の決断だったのです。愛娘であるエリザベス様は、その事をわかってさし上げなくては」

「……わかったわ……」

魂三郎は、エリザベスにわからないようにそっと息をはいた。

(思った以上に緊張しているようだな…。しかし言わなくては…)

「エリザベス様……」

しかし、その後が続かない。

「話して、魂三郎。私はあなたの言う事だけを信じる」

「……」

言いよどむ魂三郎に、泣きそうになるのをこらえて、エリザベスは言った。

「私は…大丈夫だから……」

「エリザベス様…」

意を決して、魂三郎はエリザベスの視線を正面から受け止めた。

「先程お話したように、我がアスカ王国は戦争に参戦します。そしてわが国の軍隊の軍長に私が……」

「……」

「まだ国王様より直々に命を拝したわけではありませんが、おそらくもうすぐ……」

「いつなの?」

「?」

「いつ、軍長として戦争に行ってしまうの?」

「おそらく、来月くらいかと」

「!!」

思ったよりも早かった。つまりそれだけ事態は切迫しているのだ。今まで知らなかったのは自分だけ。王女である自分だけ。しかしそれは周囲からの優しさでもあった。だが今は、そんな優しさはいらない。真実が欲しい。

「ねえ魂三郎」

「はい」

「どうかしたの?いつもと違う」

「……」

この話をしている時、魂三郎は私情をはさまず事務的な口調で話していた。

いつもよりも淡々とした魂三郎は、いつもよりも痛々しかった。

「あなたはどう思ってるのよ。何考えてるのかわからない!!」

「私に感情のままに話せと!?」

「そうよ」

「できるわけがありません。あなたは一国の王女で、私は一介の護衛にすぎません」

「魂三郎…」

「たぶんお会いするのは今日で最後になるでしょう。今までのことは…お忘れください」

「何を言ってるの!?」

そして魂三郎は、拳を握り締め、肩を震わせ、下を向いた。

涙は見せまいと、泣き声を聞かせまいと、魂三郎は王宮の奥へと姿を消した。



―――そんな二人を陰から見ていたものがいた。

「魂三郎…エリザベス……」

ミミは、涙を浮かべながら、そっと二人の名を呟いた。
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