永遠〜とわ〜 第五話
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「・・・咲乱・・・」 咲乱は名を呼ばれて魂三郎に視線を向け、意地の悪い笑顔を浮かべた。 「姫には魂がついている。心配するな。持ち場に戻ってそれぞれの仕事をしてくれ」 群衆は納得したようにその場を速やかに退いた。 三人だけが残った。 咲乱が愛想の良い笑顔をする。 「姫、すいません、このウッカリ屋じゃなかった・・・魂三郎お借りします」 エリザベスが返事を言う間も与えず、咲乱は魂三郎の腕を強引に引っ張りエリザベスから数メートル離れた所へ引きずっていった。 「な・・・なんだよ・・・」 「なんだよじゃねェ。お前、こんな公衆の面前で何やってんだよ」 「・・・何って・・・」 ―――ついさっきの行動の一部始終を思い出した。 「・・・っあ・・・」 魂三郎の顔が見る見るゆでダコのようになっていく。 "こいつ、おもしろい"と咲乱は笑いをこらえた。 「お前達は公認の仲だっていうのはわかってる。だがこれはちょっとオープン過ぎだろ・・・」 「いや、別に意図的にやったわけじゃ・・・」 「そりゃそうだろうけど、イチャつくならもっと人目の避けられる所でやれよ。後任の仲といっても相手はこの国の王女なんだからな」 「・・・イチャつくって・・・」 「俺からの説教はここまでだ。ちゃんと彼女が納得するように説明してやれ。俺はできるだけ時間を稼いでやるから」 「は?時間稼ぎ?」 咲乱は呆れたように溜息をついた。 「・・・お前・・・どうやって軍長になる気だ?」 「どうって・・・国王が決めたからなるんだろ・・・?」 「そのなったこと・・・誰から言われて決定になる・・・?」 「そりゃ、国王から言われて・・・・・・そういえばまだ直々に国王様から言われてない」 「国王様はお前をずっと待っていらっしゃるんだ。お前が帰ってくるのをな」 「はぁ・・・」 「国王が直々にお前を任命したら、これから軍の装備準備に武器確認、任命式、作戦立て、密告者との打ち合わせ・・・それからそれから・・・」 「要するに忙しくなるワケだな」 「そういう事だ。・・・ぶっちゃけこれが彼女と会って話せる最後の機会になると思う。だから彼女がちゃんと納得するように話しておいた方がいい」 「・・・ああ」 「念のために言っておくが、変なことを考えるなよ。・・・俺はお前を敵にまわしたくないからな」 「当たり前だ。わかってる」 「んじゃ、王室で待ってるよ」 「ああ・・・。・・・ん!?何でお前が王室に行くんだ?」 「おいおいさっき言っただろ!?時間稼ぎと・・・」 「時間稼ぎ・・・?」 「副軍長が俺だからだよ」 「・・・・・・だから・・・いつもと服が違うのか・・・」 「そう、これ副軍長服。お前の分もあるよ」 「すごい似合ってないな。それ」 「・・・王様ぁー!!国王様―っ!!波江がここにィ〜!」 「うわっ!!ごめんって!悪かった、咲乱ごめん」 急いで魂三郎は咲乱の口を手でふさいだ。咲乱はその手を嫌がるようにふりほどく。 「できるだけ稼いでやるから、ちゃんとケジメつけてこいよ」 「う・・・うん」 荒く歩いていく咲欄の後ろ姿が闇の中に消えていくのを確認して、魂三郎は自分の後ろにいるエリザベスを振り返った。 「お待たせしました」 「・・・・・・」 エリザベスは無表情で魂三郎を見つめていた。背筋をすっと伸ばし、あたかも彫刻の象のように静かだったが、はっきりした存在感があった。エリザベスの唇は固く閉ざされたままだ。 「はっきりと説明いたします・・・」 喉はカラカラに渇いていた。エリザベスと視線がぶつかり魂三郎は一瞬ひるんだ。 「・・・たぶん・・・」 (私たちは今月でお別れとなるでしょう・・・) 言葉がつまって、出なかった。声を出そうにも喉が渇いていた。 その言葉は喉の奥を通り魂三郎の心へと閉ざされた。はっきり言えない。 "最後"たった三文字なのに。エリザベスはすべてを受け入れようと待っているのに。 |