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永遠〜とわ〜 第二話

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ミミの店はレンガ造りの古風な感じのものだった。

中は実にシンプルで淡いミントグリーンのテーブルクロスにピンクのバラが飾ってあるだけだった。

彼女の性格がよく表されているなとエリザベスは感じた。

「・・・素敵だわ・・・」

ため息のかわりにでた言葉。

「ありがとうございます。ベス」

「今日、客はいないのか?」

「・・・魂、それどういう意味!?うちが繁盛してないといいたいの?」

「・・・現に客がいないじゃないか・・・」

「当たり前でしょ!?王の愛娘エリザベス様がくるんだもの。そんなの知れたら客がひっくり返るわ。だから今日は臨時で休み。・・・二人にもゆっくりしてもらいたいしね」

「・・・そうか・・・」

「魂、ミミ、あなた達最高だわ。・・・コンビを組んだらどうかしら!?」

ケラケラとエリザベスが花のように笑う。

「ご冗談を、ベス。・・・それよりもこの椅子に座ってください」

エリザベスと魂三郎が並んで座り、その向かいにミミがお茶をすすめて座る。

窓から差し込む日差しがエリザベスの髪を宝石のように輝かせた。

「・・・それで、話というのは?ミミ?」

紅茶のカップを口元にはこびながら、小首をかしげてエリザベスが問う。

ミミの顔が真剣なものに変わった。

「それはですね、最近南の国と東の国が戦争を始めまして、こちらの国もだんだん治安が悪くなってくるのではないかと、心配になりまして。そうなれば一番危険な目に遭うのはベス、あなたです。・・・だからよりいっそう気をつけていただきたいと思いまして」

「・・・でもミミ、南の国と東の国はこのアスカ王国からほど遠い国よ?直接名関係も無いし。心配しすぎなのでは?」

「ええ、そうなのですが。念のため。万が一のことがあったらと思いまして。この国一番の使い手の魂がいるからとも思ったのですが・・・」

「・・・どういう意味だ?」

ミミの声はかすれた声だった。

「ミミ大丈夫?顔色悪いわよ?」

「大丈夫です。ベス。たぶん日差しのせいでそう見えるだけですよ」

「そう?」

「すいません。なんだか暗い雰囲気になってしまいましたね。せっかく会えたのに。でも実はお二人をお呼びしたのは、もう一つ理由があるんですよ」

「え?何!?」

「私が考えた新作のお菓子を試食してもらおうと思いまして。美味くできているなら今度からメニューに入れようと考えているんですよ」

ミミの顔は今まで通りの微笑みになった。

「それは、楽しみだわ!!」

エリザベスの顔が輝く。

だが、魂三郎は疑惑の色を隠そうとしない顔でミミを見ていた。



「はしゃぎ疲れたようですね」

外はもう日が沈みかけていた。

エリザベスはテーブルに突っ伏して寝息をたてている。

「・・・俺と姫をここに呼んだのは、まだ意味があるのだろう?」

「・・・気付いてた?」

「ああ言われればな・・・。それに・・・あの話も・・・」

「・・・五日前、王から命令状がきたわ。・・・内容は'波江に代わり、エリザベスの護衛につけ'と」

「南の国と東の国の戦争がまるっきり関係ないわけじゃなくなったからな。姫には知らされてないが。今まで中立の立場でいたがそれももうできなくなったと、王は苦悩されていた」

「・・・その答えが一週間前に出たのよ。南の国に加担するって。そのために軍を出すことになった。・・・おそらく軍長として、魂・・・あなたが任命されるわ。あなたはこの国の一番の使い手なのだから・・・」

「・・・ああ。覚悟している。王の考えに背く気はない」

すぐ返ってきた答えに、ミミは驚いた。

「し、死ぬかもしれないのよ!?・・・それに、それに・・・!!」

「命令だ」

夕日が窓際の魂三郎を照らす。あかいあかい日の光はミミの目に痛々しく映った。

ミミはエリザベスに視線を向け、出そうになった言葉を飲み込んだ。



=エリザベスの気持ちはどうなるのだろう?=



今日エリザベスが転びそうになるほどはしゃいでいたのも、魂にいつも敬語を使うなと怒っていたのも、すべては・・・。

その気持ちに気付いているとミミは思っていた。

二人の周りの雰囲気からたぶん魂も同じなのだと確信していた。

彼の立場もわかる。だが、この魂の態度はなんだか腹立たしい。

寝ているエリザベスを見て涙がこぼれそうになった。

エリザベスはまだ何も知らない・・・。

ミミは魂三郎を見た。彼は夕日が沈み暗くなった外を、無表情で見つめていた。

その横顔を心底、殴ってやりたいとミミは思った。

本当に。力いっぱいに。だが、唇を強く噛んで睨むことに押し止めた。
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