『midnight』



 「いいの?」

 「何が?」

 何に対して“いいの?”と聞いているか、わかっていて問い返した。

 「もうすぐ終電の時間だけど」

 そんなこと、わかっていた。ここから役まで徒歩15分。急いでも10分弱はかかる。そして終電まであと20分ほど。終電で帰るなら、そろそろ駅に向かったほうが良い。

 「帰れなくなるけど・・・それともタクシーで帰るのか?」

 タクシーで帰るわけなどない。一体、いくらかかると思っているのか。そういう意味をこめて首を横にふったが、意味は通じなかったようだ。

 「いいのか?」

 また同じ問いかけ。言葉にしないと、彼には伝わらないのだろうか。

 「いい。帰れなくてもいい」

 そう言葉にしても、彼の頭で理解されるまでには時間がかかるようだ。

 「帰れなくてもいい。まだ一緒にいたいから」

 そう言って、しがみつく。これほど体中で意思表示をしたのだから、少しはわかってくれるだろう。

 「離れるのが寂しいって思うのは私だけ?」

 「いや・・・」

 二人の思いは同じだと、互いに微笑みながら感じた。

.




ブラウザバックでお戻りください